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HP

サークルについて

KeyやTYPE-MOONの二次創作小説や
オリジナルのノベルゲーム、小説を制作されています。

 

作品

フリックドロップ(DL版の購入はこちら)

 

概要

ジャンル

オリジナル/ノベルゲーム

発売年月

2009/8

価格

500円

年齢制限

なし

特徴

SF、ロボット、人間

選択肢なし、十八時間半ほどで読み終わりました。
バックログ、表示速度変更、既読スキップ、オートモードなどがあり、
セーブデータは15個まで保存可能です。

 

あらすじ

 Aside/project lilac

 ある青年、ユウガの仕事は、フリックを磨く事だった。
 街の真中に聳えるフリックの高さは尋常ではないが、しかし逃げ出す事は彼自身が自分へ許さない。
 このフリックを磨き上げると決めたのは、彼自身なのだ。
 しかしフリックの大きさは繰り返すように尋常ではなく、たかが人間1人で磨き上げられるほど甘くはない。
「あのー、さすがに無謀じゃないですか?」
 遅々として進まない作業と悲鳴を上げる躰。それらに半ば心を折られかけた時、
 声をかけてきたのは、眼鏡をかけた女性型のヒューマノイド、リナリアであった。
「私、清掃業者なんですよ。よろしければそのお仕事、私に依頼しませんか?」
 ユウガはその申し出を受ける。猫の手でも借りたい心持ちだったのだ。
 ―――最も、猫の手どころか、そのヒューマノイドは下手をすれば
 尋常ではない大きさのフリックを1人で掃除してしまえるような性能の持ち主であったのだが。

 ともあれ、ユウガは今日も明日もフリックを磨き続ける。


 ある女性型ヒューマノイド、イロハは一つの使命を持って創られた。
 今この街にある最高の工学力を集めて、最高のヒューマノイドを創る。
 そして人とより良いパートナー関係を結ぶための「何か」を探す、そんな使命だ。
 胡乱な思考で目覚めた時、彼女の目の前にはある工学者がいた。
 傍若無人な立ち振る舞いをする彼女と共に、緩やかにイロハは眼を覚ましていく。
 その工学者は、窓からフリックを指差した。
「なぁ、みてみろ。あそこに人影がみえるだろう?」
 未だ完全に覚醒していないイロハは返答が出来なかったが、望遠鏡を覗くと、
 その姿は確認する事が出来た。フリックに張り付き――どうやら、掃除をしているらしい。
「よく見ておけ。あいつが何故あんなことをしているのか。それがお前の一つの道標になるはずだ」
 目が覚めたとき、この朧な時間の記憶はなくなっているかもしれない。
 ただ、それでも―――彼女の眼には、確かに青年の姿が映り、
 それは何か特別なもののように、焼きついていた。

 やがてイロハはある日、未だ覚醒しきらぬ躰と心のまま、街へと飛び出す。
 思いは一つ。あの青年を、もっと近くで見てみたい。

 物語が動き出す時は、いわずもがな。
 ユウガとイロハが出会う、その瞬間である。



 Bside/Frikk drop

 少年が目覚めた時には、何かが壊れていた。
 まず挙げられるのは、記憶。彼は自分が何者であるのか、どこから来たのか、判らない。
 否、それどころか、彼はあらゆる概念の存在を忘却していた。
 モノの名前も、言葉も、感情も、何もかも。
 ただ朧にあるのは、ある女性との微かな記憶だけ。
 手がかりにすらならなそうなそれを糧に、彼は少しずつでも記憶を取り戻そうと苦心する。
 幸い、時間だけは沢山あった。何せ彼は知らぬ間に幽閉され、一切の行動を禁じられていたからだ。
 少年は与えられた部屋の中で苦悶する。壊れた自分を必死に拾い集める。

 ―――そんなある日、眼を覚ました時、目の前に少女が覆いかぶさっていた。
 扉はいつも閉まり、警備員も外を巡回しているのに、何故彼女はこの部屋へ入ってこれたのだろう。
 少女は、屈託のない笑顔を少年に向ける。
「きみの名前は?」
 少年は覚えていた。そう、遠い日の記憶の中に、微かに煙る思い出がある。彼は確かに、ここにいるのだ。
「ハルトです」
「わたしはアマネ。よろしくね、ハルトくん」
 そうして、ハルトの繰り返しの日々の中にアマネという変化が生まれた。

 物語が動き出した時は、いわずもがな。
 ハルトとアマネが出会った、その瞬間である。

(サークルHPより)

 

この作品について

一度滅びかけながらも復興した世界で、人間とロボットの関わりが描かれている作品。
話はフリックと呼ばれる隕石を掃除する青年、ユウガが最高の性能を持ったヒューマノイド、イロハと出会うAside、
監禁された少年、ハルトのもとへアマネという少女が忍び込んでくるBsideが一日ずつ交互に進んでいきます。
体験版の感想はこちら

システム面は特に問題なし。
音楽は話の雰囲気に合っていました。
絵は一枚絵がなく立ち絵のみ。すっきりとした絵柄で好感が持てました。

Aside、Bsideがそれぞれ進行していく中でお互いに接点ができてきて、
どういう関係があるのか段々とわかっていくますが、
そのまま事は終わらず、どちらにも大きな転換が訪れます。
敵役がとる行動に穴が多すぎて、上手くいきすぎるように思えてしまったことが気になりましたが、
全編にわたり人とロボットの関係を真っ直ぐに丁寧に描いていて、読み応えがありました。
人そっくりなロボットがいるくらい技術が進んだ世界なのに、どことなく感じる懐かしさも心地よかったです。

 

この作品で一番好きなところはそれぞれの主人公とヒロイン。
特にイロハが魅力的。品があるのに気さくで、勝負事に真剣で、
緊張しいで、ノリが良くて、からかいがいがあって、さらに貧乳で、そして在り方が強い。
同じように強いユウガと二人が揃っていれば、
それが二人きりでも友人達と一緒でも常に眩しいくらいの輝きを感じられました。
二人揃っているシーンは全てがお気に入りです。

ハルトとアマネは少年少女らしい甘酸っぱさが感じられてこちらもお気に入り。
まあ、初々しい少年少女と呼ぶにはアマネがぶっ飛びすぎているような気がしなくもありませんが。
二人にはずっと手を取り合って進んでいってほしいです。

そして、彼らを中心とした日常も、Aside、Bsideとも面白くて賑やかで暖かくて、
……儚くて、でも続いていく、とても楽しい日々でした。

 

人とロボットとの想いが暖かくて、優しくて、綺麗な、素晴らしい作品でした。

 

(以下コミティア90版の感想です・2009/12/2)

フリックドロップ コミティア90版(500円)

コミックマーケット76で頒布されたものからシナリオの追加と、
音楽鑑賞、シナリオジャンプ、体験版オマケテキスト収録のEXTRAモードが実装されたプレス版。
C75版を今回のものにアップグレードさせるパッチもサークルサイトにあり。

シナリオの追加部分は三十分ほど、それまでのシーン同様いいなと感じられましたが、
アマネの追加部分から「……僕が寝ている隙に」が繋がっていないように思えました。
「それで」とかの接続詞が欲しかったです。

オマケテキストはクリア後に読むとよりハチャメチャで楽しめました。
特にコミックマーケット75版。何故その組み合わせなのか、と。
あと他の出演者は舞台裏がわかっているのに
アイカだけ知らされておらず可哀想な子になっていたのが泣けました。

あと、紹介時はさらっと流してしまいましたが音楽良いです。
未来的なのに、さらにそこから先の未来に希望を抱かせるような曲調の「風、流れて」「復興する世界の理」
神秘的な「落ちた星の下で」や懐かしさを感じさせる「ただ穏やかな夕闇暮れ」「空に溶け」
ユウガとイロハの会話が聞こえてきそうな「星の子と人の子と」「消えない言葉」などお気に入り。
あと笑ったシーンはほとんど「悪だくみ、その結末」か「ロボットのおもちゃ箱」でした。
と、いうことでC76まとめの音楽が良かった作品に追加したのでした。

 

 

 

作品

4period

 

概要

ジャンル

オリジナル/小説

発売年月

2009/12

価格

800円

年齢制限

なし

特徴

終わり、短編集

サイズは文庫版、ページ数は244ページです。

 

あらすじ

■マーメイド、山へ(kobax)

 死にたがりの少年ソルは、ある日森の中に迷い込んだ。
 人もいなければ光も無い夜の森で、少年は首を吊るための縄を綯ぐ。
 その時突然、近くの池から声がする。
「あのすみません、ここ山ですか?」そう訊いたのは、足に尾びれがある人魚だった。
 緑色に光り、空を飛び、山にいる変な人魚リタリーと、少年ソルとの生活が始まる。
 しかし――彼らはそれぞれに秘密にしていることがあった。

 ―――少年と人魚の物語。

■ローランダ、空へ(kobax)

 樵が倒れている小鳥を見つける。
 それは平凡な出会いだった。
 小鳥が飛べるようになるため、樵は手助けする。
 それは充実した毎日だった。
 だが、彼らの願いが叶う日はいつまで経ってもやってこない。
 空はいつも変わらず、彼らを眺め続ける。

 ―――小鳥と樵の物語。

■ガーゴイル、君へ(kobax)

 長い、長い時間を生きた男がいた。
 殺戮も愛憎も怠慢も、全てやり終えた。もう男にすることなど何も無い。
 僕(しもべ)と二人で暮らす、何もない毎日。何を求めて、どう生きようか。答えはなかなか見つからない。
 そんなある時、僕から突然聞かされる教員採用の報せ。
 性別は悪魔、職業は音楽教師。一人の少女との出会い、音楽への探求が男に変化をもたらしていく。
 そして、徐々に明らかになる物語の真相とは――。
 全てはここに始まり、何も終わらない。

 ―――悪魔と少女の物語。

■スーベニア、夜へ(広瀬凌)

 男は吸血鬼だった。しかし、他の吸血鬼のような強い力や、魔を操る力がなかった。終わるとも思えない、ただ長い命だけが彼が化物である証だった。

 冬のある日、山間に凍える古城に男は現れた。
 城の主は黒い衣装を纏う吸血鬼だった。
 男には目的があった。吸血鬼の王たるドラキュラに、名前を貰う事だった。

 スーベニアと名付けられた吸血鬼は、旅先で女性の人形師と出会う。
 パトリシアと名乗った女性との日々。
 ゆるやかな時間の中、吸血鬼であるスーベニアは何を思うか。

 ―――吸血鬼たちの物語。

(サークルHPより)

 

この作品について

「マーメイド、山へ」「ローランダ、空へ」「ガーゴイル、君へ」「スーベニア、夜へ」
終わりをテーマにした四つの短編を収録。
それぞれの話は同じ舞台での話のようです(「ローランダ、空へ」だけは違うかもしれません)

「マーメイド、山へ」は人魚が山に! その上、空飛んだり光ったり、という設定が面白いなと思えました。
それから一番最初と一番最後のシーンは寂寥とした感じがよく出ていました。
ただ、それ以外のシーンは勝手に話が進んでいってしまい、取り残されたように思えてしまいました。

「ローランダ、空へ」は二番目にお気に入り。
ローランダの真っ直ぐさとジャックの暖かく見守る様が微笑ましいです。
最後の台詞も印象的でした。

「ガーゴイル、君へ」は男と僕(しもべ)についての描写がちょっと足りないように思えました。
ただ、男と少女の拙い授業ながらお互いが感じている安らぎと、
その末に描かれるそれぞれの行動の差が印象的でした。
それまでの二編もそうですが、最後の締め方が良いなぁと思います。

一番面白かったのは「スーベニア、夜へ」
人並みの力しかないスーベニアが、最後まで人並みのままで、長い時を過ごす話。
人と同じ生活をしながら、年を取らないために色々な場所を転々としていく様子を描いた場面が中盤にあるのですが、
一つ一つの街での描写は数行から数十行程度とごく短いのに、
そこで起こった色々な出来事と、それに対してスーベニア達がどう感じたかが、
街ごとに一つの長編を読んでいるかのごとく詳細に、雄弁に伝わってきましたし、
別の街へ移るときの寂しさはそんなとても面白かった長編小説を読み終えてしまったときのような喪失感を覚えました。

たった数十行の出来事でそう思わせるだけの筆力があるのに、
最初の街のことは数十ページにわたって描かれています。
そこで出会った人々や数々の思い出を置いて出ていくことを決めた場面と、
実際に出ていく場面の描写は終始素晴らしいこの話の中でも格別。
寂しさと、それまでのスーベニアの出立には無かったであろう軽やかさが入り混じって胸が震えました。

その場面を写し取ったかのような気持ちにさせるラストも良かったですし、
時の流れがとても印象的に描かれている話でした。

 

 

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