郷愁花屋

サークルについて

オリジナルのノベルゲームを制作されていました。

 

作品

滅び朽ちる世界に追憶の花束を

 

概要

ジャンル

オリジナル/ノベルゲーム

発売年月

2010/5

価格

DL版900円

年齢制限

なし

特徴

近未来、花、終末

選択肢なし、二十六時間ほどで読み終わりました。パッチあり。
番外編「滅び朽ちる世界に追憶の花束を 〜present for you〜」は選択肢なし、一時間四十五分ほどで読み終わりました。
バックログ、表示速度変更、既読スキップ、オートモードなどがあり、
セーブデータは80個まで保存可能です。

 

あらすじ

全てを捨てる、覚悟を決めた。
地位も名誉も財産も………そして、大切な家族も。
全てを置き去りにして、この時代から去ることを決めた。


***


滅び朽ちる世界に追憶の花束を贈りましょう。
これは、いろいろな形に栄えたそれぞれの時代と、そこで生きる人々のお話。
そして自らの望みを叶えるために時空を超える旅に出た、愚かな男の物語。

長い歴史の流れから見ればほんの一瞬の生でしかない彼女たちは、それぞれの時代を果たしてどのように生きたのでしょう。
それぞれの時代に何を思い、何を成そうとしたのでしょう。
花のように、人はたった一度きりの美しい花を、それぞれの生の中で咲かせるのだと思うのです。
今回はそんな、生命力に満ちた物語をお話しましょう。

ようこそ、郷愁花屋へ。

(サークルHPより)

 

この作品について

近未来を舞台にした八つの話を収録。
SF風世界観冒険ノベルとのこと。
体験版についての文章はこちら

システムは特に不便な箇所なし。
音楽は懐かしさを感じさせながらもどこか不安定な曲調のものが多く、それらも良かったですが、
話の展開に合わせて晴れやかだったり穏やかだったりする曲に変わったときにはとてもカタルシスを感じました。
お気に入りはタイトル画面で流れる曲。オムニバスのためタイトル画面に戻ることも多く、そのたびにいい曲だと思えました。
システムアイコンにカーソルを乗せたり、会話時に流れる効果音もいいアクセント。
絵はまぶしいくらい光が描かれている場面が多くて、それが輪郭をくっきりとではなくぼんやりとさせていて幻想的でした。
ここぞというときに表示される一枚絵も印象的。
演出は使用頻度が高めのメニュー呼び出しにも発生するのがちょっと面倒でしたが、
それ以外の場所では豊富かつ効果的に使用されていました。

年代や場所が異なるもののどこかで繋がりのある八つの話を任意の順番で読むことができます。選ぶ時のアイコンは花。
それぞれに0章から八章があり、読み進めていくと「remembrance mode」というその話の過去や別視点でのミニシナリオがいくつか出現します。

「forever」は大学デビュー時に整形して超美人になった緋依が友人や彼氏と日々を送りながら、永遠に生きることを求める話。アイコンの花は薔薇。
周囲の反応を見る限りでは緋依(旧)は本当に容姿が良くなかったようですが、ビジュアルでは結構可愛いかったことが気になったものの、
八つの話の根本となる出来事が多くあって、他の話でその痕跡を見つけるたびに感慨深さを感じることができました。
単体としても緋依の奔放ながらも一途な所、友人や彼氏の思いやりが描かれていて、終盤それが強く現れる場面の数々が胸を打ちました。

「innocent」は月にできた裁判所を発展させたような議論の場「アテネの学堂」で審議記録人をしている百合が、
証拠からは明らかに人を殺したとされているのに精密な嘘発見器で無罪とされた少女と、百合の兄の討論を記録することになります。アイコンの花は百合。
いい意味で茶番だったなという話で、アテネの学堂が厳格さだけでなく人の心が尊重されていて安心できました。

「abandoned」はジャンクタウンと呼ばれている無法地帯に新技術の素材を探しに来た男、陽炎がブルーという孤児の少女に出会います。アイコンの花はひまわり。
大人げない大人と、大人らしさを見せる子供の対比が、結構な陰謀がありながらも明るいトーンで描かれていました。
しかし終盤の一シーンが絵や音楽も相まって衝撃的で、太陽に向かって咲く華やかさと、枯れたときのみすぼらしさをもつひまわりに相応しい話でした。

「lost」は「forever」よりも千年近く未来、終末が予言された2999年に過ごす学生の話。アイコンの花は忘れな草。
四章以降を読むためには条件があって、それに気づかないまま他の話を全部読んでしまいました。
成層圏にまで達する大樹、魔法のような技術など、千年後にわくわくしましたが、
ループであるという構成もあって、登場人物に思い入れを抱きにくいと感じてしまう部分がありました。

「circular」は全てが上手く行かない末に美術品の冠を盗んでしまった大悟が、同じ冠をしたホログラフの女性マゼンダと出会います。アイコンの花は蓮。
そう上手くいくかな……という理想な展開ではありましたが、他の話にも関わってくるマゼンダの凄さを実感できましたし、
反面至らなさもあり、受け継がれる想いもあり、この話でしか見られない人となりを知ることができました。

「vivid」は学校で配布された謎の薬を飲んで目が赤くなってしまった少女、紅が謎の組織に拉致され、
同じ境遇の少女、沙乎華と一週間以内に相手を殺せと言われますが、沙乎華の提案で最終日まで友達として過ごすことになります。アイコンの花は彼岸花。
最初は全く沙乎華を信じられなかった紅が、終盤沙乎華のことを大切に思うようになれて良かったなと思えましたし、
涙や笑顔といったキーワードが大切に使用されていました。

「melancholy」は天候を操れるようになった時代に、晴れとされている日に雨を望む少女、紫亜が、
雨が嫌いだった祖母、蒼子の昔話を聞くことになります。アイコンの花は紫陽花。
紫亜も蒼子も能天気なくらい明るくて好感が持てましたし、
蒼子の昔話がめちゃくちゃ恋愛で青春しているなぁとまぶしくて、八つの話の中で一番お気に入りです。

「dear」は「lost」の終末をコールドスリープで乗り切ろうとした街で、何故か一人だけ目覚めてしまった未黄が、
荒れ果てて住むことができない外の世界からやってきたという少年、春と二人だけで過ごすことになります。アイコンの花はタンポポ。
前半の備蓄食料食べながら誰もいない街で遊ぶ場面になんだかワクワクさせられました。
後半明らかになる真相も、壮大さと絶望を感じられるものでした。

以上読んだ順ですが、「melancholy」以外では「forever」「abandoned」「vivid」がお気に入りです。

それぞれの話がどのように繋がるのか考えたり、それが明らかになったりするときにハッとするような楽しさがありましたし、
完全には明かされていない部分をあれこれ想像しがいもあります。
年代が違うそれぞれの話や、タイムマシンが出てくるプロローグとエピローグを読むことで、
どれだけ幸せに終わっても、百年先にその人はいないという無情さと、
それでも残るもの、受け継がれていくものはあるという前向きさをたっぷりと味わうことができました。

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